平成最後のデンマーク行き指導を終えました。 台東区の中学に通う生徒17名から満面の笑みで行って来ましたと写真を添えて無事帰国の知らせを受け安堵。
 波島陽子が国際交流の一貫として日本舞踊の指導を受けて今年で丁度10年の節目。

  実は、この事業にはとてつもない作業が隠されていたことを私以外誰も知りません。
 それは、中学の生徒に5時間で仕上げるという途方もない計画だからです。 
習う側は簡単に考えているかもしれませんが、何を踊るのかを決めてから「振付作業」があってその後5時間で着物の着付け、たたみ方、そして舞踊指導となるからです。
 正直言って、5時間では形にもならないでしょう! 本来は家元一人で指導に出かけるのですが、全体像(演出)を押さえたら早いだろうとこの10年私も全て参加させて頂きました。
 1人ではおそらく見れないであろう日本舞踊も団体(群舞)なら魅せることができるかも知れない。 
 舞踊家から言わせればとても満足のいく仕上がりではありません。 しかし、子供たち(学生)が純粋に頑張ろうとしている姿に毎年心打たれ今回まで担当させて頂きまし
た。   教えながらなんと学べることの多いこと。

 日本の伝統芸でもある日本舞踊。日本を代表する文化とも言える日本舞踊の神髄に触れることが出来たのもこの指導があったからかなとも思っています。

 写真は、「輪」になっている光景ですが、ここに大きな秘策を込めてこの輪を作ることを提案しました。
 学生たちは1年前、まだ小学校の生徒だった分けです!! おそらく初めての大きな経験に遭遇しているのだと思います。 そう考えただけでも指導の難しさ満載です。
 こうなったら「若さ」、「可愛らしさ」等を前面に出すしかない。 そうは言ってもそれぞれに性格があって「おとなしい子」「明るい子」と毎年本当に様々です。
 作品によっても違いますが、この17名をひとつの作品として完成させるためには、まず心をひとつにするということがとても重要になります。輪になることなどこの写真を見てもそれほど難しくないと思われるでしょう。 しかし、女子12名、男子5名。
今年は女子11名、男子6名の編成でした。
 「はい!輪になって」と号令をかけると一様に輪が出来ます。 それではダメなんですね。男子は男子、女子は女子とくっついてしまうのは当然です。そこで私からの最初のダメ出しが出る訳です。

 つまり、全員で出かける訳です。 全員が助け合い励ましあうことでインスタントではあるけれどチーム(派遣団)が出来る訳ですね。  女の子の隣に行きたがらない男子がもぞもぞし始めています。 「全員隣りが女子になるよう輪を作って・・・」
大きな号令はウも言わさず理想の輪となります。 しかし号令はまだ続きます。
「どうして先生は輪に入らないんですか!?」・・・と。 するとすかさず輪は大きく広がります。 そして、リーダーにそのコツを伝えます。
『リーダーが、踊りを披露する前に必ずこの輪を招集し、輪が出来たら大きな声で、「頑張ろう・・・!」と言って下さい。 その号令に続き全員でお互いの肩に置いた手を叩くように「笑顔で!」・・・・と全員で叫んでください。それが最初です』・・・・と。
 これを考えてからもう5年くらいになるでしょうか!?  一瞬の内に一体感のようなものを感じるのはそこに居た人なら全て納得したことでしょう。
 知らない学校から集まった生徒の代表です。 この掛け声はお稽古の効率を非常に高めることになりました。 技術ひとつ習得するのに最低1年や2年かかるのはザラです。
それを見せられるように仕上げるって信じられない時間との闘いな訳です。
 それだけに、効率よく指導するには・・・のコツみたいなものが自然と身について行ったのは事実でしょう。

 お稽古場で一人、延々と振付をし完成させるまでに1ケ月弱時間を要します。これは学校の先生も生徒も知りません。  通常の稽古が毎日あってのことですから想像を超える凄さです。  その想いが分かるだけに私の気合は半端ではなくなるのですね。
 デンマークに何をしに行くのか!? そこから紐解くとただ日本舞踊の作品を教えれば良いのではないことに気づきます。
 前述のように、5時間の制約ですから自ずとお稽古時間は緊張が走ります。
言ってもなかなか難しいのですが、「最低でも波島が教えた振付に心を入れましょうね」と説き続けます。

 選ばれたという自覚はお稽古のところどころに顔を覗かせます。 生徒一人一人みな一生懸命になります。
 日本舞踊は「技術」に「精神」だという難しい秘訣のさわりだけでも理解できたら、あの子たちなりに完成です。
 元気に戻って来た子供たちに会えるのが楽しみです。 きっと心の挨拶を体験しながら素晴らしい旅をおくったと信じています。
 伝えることの大切ささえ分かれば今回の日本舞踊の披露はきっと大成功だったに違いありません。
 今年度の担当の先生たちは最高のスタッフでした。 この子たちが大人になったとき、ここに「感謝」が当てはまっていたらこんな素晴らしい事業はなかったでしょう。
 これが学ぶということですね。 本当にお疲れ様でした。

 デンマークの皆さんに喜んで頂けたとしたらひとまず本望です。 日本の素晴らしさは何ですか・・・と聞かれ、「心の美しさ」です・・・と答えられたら合格でしょう。
 

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